有機農業をはじめよう/コラム記事

6.草生栽培に利用できる草

(1) … 日本の野草

なんといってもレンゲでしょう。レンゲのほかにマメ科ではカラスノエンドウがあります。クズも場合によっては使えないこともありませんが、後始末に困るのでとりあえずはやめておきましょう。レンゲ、カラスノエンドウは根に根粒菌がついて窒素固定(*1)をしてくれるので、緑肥作物としておおいに使うべきでしょう。これを草生栽培として畑作物に組み込めば面白いことができます。

(*1)窒素固定…生物が空気中の遊離窒素を体内に取り込み、アンモニアまたはその誘導体であるアミノ酸(たんぱく質)などに還元する現象。その作用を営むのが窒素固定菌という土壌中の細菌で、単独窒素固定細菌と、マメ科植物につく根粒菌などの共生窒素固定細菌がある。

イネ科の草も使えないことはありません。たとえばススキです。腐りにくいようで案外と腐りやすいものです。刈ったススキは畝間に敷いておくとよいでしょう。畝間を歩くたびに踏みつけるので、案外と土に早くなじみ分解します。ススキは刈る時期に注意がいります。お盆前に刈ってはいけません。なぜならお盆までに貯えたエネルギーが翌年の分として根に貯蔵されるのです。したがって刈るのはお盆を過ぎてからにしましょう。

他の草はどうでしょう。春草・夏草など、いろんな草が生えてきます。こうした草をうまく使うコツは種を畑に持ちこまないことです。たとえそれが未熟であっても、発芽能力を持っていますから、かならず種をつける前に刈り取って畑に持ちこみます。もしも種をつけているようであれば、水をかけて積み上げ完熟堆肥にしましょう。高温発酵をさせて種を殺してしまうのです。そのかわり堆肥にするのに最低1年はかかってしまいますが。

草といってもあなどれるものではありません。なぜなら草は土の肥沃度をただしく示してくれる、いってみれば指標植物なのです。酸性土壌なら、まず生えてくるのはスギナです。スギナが生えているのは土が酸性で養分が少ないことを意味しています。それからギシギシです。こうした草が生えることによって土壌中の少ない養分を吸収し、有機物とともに地表に集めてくれるのです。土が肥沃になってくるとスギナ・ギシギシなどは姿を消してゆきます。もっと肥沃な土に生える草にバトンタッチするのです。やがて土壌生物が多くなり、土はどんどんと肥沃になってゆきます。

河川敷きの堤防を見てください。いつも草が刈られています。なぜ草を刈らねばならないのでしょうか。その理由は、草を刈らないと土が肥沃になって膨軟になり、大水の時に崩れやすくなるからです。したがって堤防の草はせっせと刈り取って、土をやせたままにしておかなくてはならないのです。同じことが畦にもいえるのです。畦の草をこまめに刈ってやらないと畦がやわらかくなり、水田の水持ちが悪くなってしまいます。水が漏れてしまうと水田になりません。畦の土は固くしまっていないとだめなのです。

(2) … 刈敷き用(青刈り)や有機物源(緑肥)として使う植物

日本の気候は、夏が亜熱帯、冬が冷温帯から亜寒帯になる、極端に四季の変化が激しいところなので、一年中おなじ草種でやってゆくことができません。

そこで、秋から春にかけては▲[寒地型牧草]でやりくりし、初夏から初秋までは△[暖地型牧草]、すなわち熱帯や亜熱帯原産の草になります。

寒地型牧草は、主としてヨーロッパ平原原産の元は野草で、冷涼な気候に適した草です。軟らかく、家畜が食べやすいように改良されたので、牧草とよんでいますが、元はタダの野草です。

マメ科 … 窒素固定をしてくれるので、土地が次第に肥沃になってゆきます。

▲[レンゲ・カラスノエンドウ]

わが国の気象条件にもっとも適したマメ科植物。この有効利用をもっとはかるべきでしょう。

▲[ダイズ]

青刈り用としても使えます。クズ豆を使えば安くつきます。

▲[ヤブツルアズキ]

野生のアズキで、市販のアズキの半分ほどの小さな黒い豆ができる。食用に使えるし、ツル性で広がって野草を押し倒してゆく。こぼれ種で越冬するので、一度播くとずっと利用できます。

▲[赤クローバー・クリムソンクローバー・アルサイクロクローバー]

株立ちなので、種まかれる以外には広がりません。イネ科植物との混播がおすすめ。暑さに弱い。アルサイクロクローバーは赤クローバー・クリムソンクローバーよりずっと酸性土壌に強いし、耐湿性もあるので、水田あとの土壌改良にはおすすめの植物です。

▲[白クローバー・ラジノクローバー]

土壌の酸度が低くても育つのがミソ。ランナーで広がるため、はびこると始末しにくい。果樹園などに適しています。

▲[ヘアリペッチ]

カラスノエンドウによく似た草で、巻きひげでからみながら伸びてゆきます。適当に大きくなったところで、ロータリーで浅くすきこむと、発芽阻害剤が含まれているために野草種子の発芽が阻害され、野草抑制に大きな効果を発揮します。暑さにはかなり弱いのですが、酸性土壌には強いほうなので、日本ではおすすめでしょう。

△[クロタラリア]

熱帯の植物で、日本の夏だと生育しますが、寒さには弱い。レンギョウを大きくしたような黄色い大きな花が咲きます。草丈は2メートルを越し、有機物源として有用で、根はネコブセンチュウを駆除するのにも役立つという、イチオシの有用植物。

△[セスバニア]

熱帯の植物でクロタラリアとおなじように大きくなります。過湿に強いのが特長で、太い根が2メートルくらい地中にもぐるため、硬い耕盤層を突き破ってくれます。耕盤が硬くて、排水不良になっている土地の排水をよくしたり、土地改良に適しています。

イネ科 … 窒素固定はしないが、生育が旺盛です。マメ科と併用するのがよいでしょう。

▲[イタリアングラス・ペレニアルグラス・レッドトップ・ケンタッキーブルーグラス]

牧草として使いますが、夏の暑さには弱いほう。つまり寒地型の牧草類です。刈敷きにはもってこいの草丈で、扱いやすい。刈り込みを何度もおこなうと、地表近くに根がマット状に張るので、空気が通りにくく、数年間栽培すると、マットの下が還元的になってしまいます。ブラウで反転耕をおこなうとよいでしょう。

イタリアンは耐暑性があるし、酸性土壌むきで、おまけに排水が悪いところでも育ちます。他にオーチャードグラス・チモシーがありますが、いずれも暑さに弱いので、関東以北の冷涼な土地がよいでしょう。ケンタッキーブルーグラスは耐寒性があり、冷涼地向きです。

▲[エンバク・ライムギ・青刈り用のムギ(オオムギ・コムギ)・ヒエ]

実をつける一歩手前で刈り取ってしまい、刈り敷きとして利用します。ライムギは痩せ地向きで、ネグサレセンチュウの防除にも役立ちます。いずれもクリーニングクロップとして、土壌養分のバランス回復に役立ちます。

△[ギニアグラス・ネピアグラス・スーダングラス・ソルガム・ローズグラスなど]

熱帯・亜熱帯の原産で生育が旺盛。草丈もさることながら、C4植物であるため、光合成の能力は他の植物よりも強力です。そのぶん生長も旺盛です。これでもって、刈り敷きの材料は大量に確保できるし、生育中には野草対策にもなります。養分吸収力が強いので、クリーニングクロップとして、ハウスに集積した塩類や養分過剰を緩和するのに役立ちます。

ローズグラスは、ナトリウムの吸収力が強いので、家畜糞尿を多用したハウスの塩類除去には、とくにおすすめの植物です。このほかに、ダリスグラス(越冬性あり)、バミューダグラスがあります。バミューダグラスは酸性土壌に強く、塩類・湿地にも強いというすぐれものです。また、バヒアグラスという暖地牧草は葡萄性でしかも攻撃性があるため、他の草を協力に抑えつける強い草なので、野草対策にはぴったりなのですが、作物を傷める可能性もあるので要注意です。

土壌成分のバランスがくずれたような土壌でも、ローズグラスのような吸収力の強い植物は、バランス回復に格好の材料となります。根系はマメ科とちがって、ヒゲ根がびっしりとはびこり、それだけでも土壌中に有機物を補給したことになるのです。なお、ギニアグラスはリンを、スーダングラスはカルシウムをよく吸収するので、鶏糞や石灰をやりすぎた土壌のバランス回復にうってつけです。

※このコラムは『ぐうたら農法のすすめ』『有機農業コツの科学』の一部より、著者の許可を得て転載しております。