有機農業をはじめよう/コラム記事

9.作物を育てるコツ その1 / ナス科 トマト

ぐうたらでうまく作物を育てる方法は? どうすればよいでしょう。まず第一に、愛情です。そのつぎには、作物の生まれ故郷がどんな環境だったかを考えてあげるのです。それも愛情かもしれません。さて愛情からひとまず説明しておきましょう。

栽培する人のクセが作物にあらわれる

ずいぶん前のことなので、何年前だったかはっきりとは覚えていませんが、みごとな作物が育ったのを目の前でみたことがありました。それは保健婦さんから依頼されたのがきっかけだったのです。精神障害者の方たちのリハビリに作物を栽培したいのだけれど、農薬はつかえないし、できれば有機農業でしたいのだけれど、教えてもらえないか、という内容でした。さっそく二つ返事でひきうけ、ボカシ肥をつくったり、種をまいたり、土を鍬でおこしたりと、せまい農地でしたが、あわただしい作業が続きました。

私がおどろいたのは、ジャガイモ・ネギ・トマトなど、どの作物をみても、じつに素直に、のびのびと育っていたのです。ジャガイモはジャガイモなりに、ネギもトマトも、作物本来の姿をして、見るからに健康でいきいきとしているのです。

化学肥料をたっぷりやった作物とくらべてみると、全体に小振りでした。しかし、葉の色は薄緑がみずみずしくて、枝の太さからすると重そうなトマトがたわわについている様はみごとというほかありませんでした。ようするにバランスがとれているといいますか。

春・夏の作物が一段落したあと、みんなでミーティングをしました。そのとき私は患者のみなさんに、「何がいちばん楽しかったですか? キュウリやジャガイモ、トマトがたくさん収穫できたからですか?」と聞いてみたのです。すると、「毎週畑へいくたびに、作物が育ってくれる。世話をしたら大きくなってくれるのがいちばんうれしかった」。そう答えられたのです。それを聞いて私は、なぜ作物が素直に育ったのか、ようやく納得がゆきました。患者さんの素直な心に、作物が応えたにちがいありません。

患者さんの心の病は、本来純粋すぎて、矛盾を人にぶつけられなくて、結局自分を傷つけてしまう。きっとそうにちがいない。収穫物を喜んだのは、世話をした私たちの方だけだったようです。

作物は「人となり」がじつに正直にでてきます。育てる人の性格が、作物を見ていると手にとるようにわかります。私が顧問、といってもじつに不真面目な顧問なのですが、京都大学有機農業研究会というのがあります。不真面目な顧問の言い訳になるかもしれませんけれど、学生諸君がそれぞれ自分の思いや工夫でもって、有機農業をやっているのだから、それを端からとやかくいうのも何だとおもって、じっと見ていることにしたのです。まあ、学生諸君のしていることは、ひょっとするとブラウン運動のようなものかもしれません。それはそれで、いいことなのですが、かれらの畑を見にいって、作物を観察してみると、下宿(今は流行らず、ワンルームマンション)の片づけ具合、ノートの取り方など、まるで見ているように、想像がつくのです。

作物をどのように手入れしているか、草をマメに刈っているか、支柱の立て方や結び方など、たとえ週に1回しかいかなくても、作物の育ち方はまったくちがってくるのです。

サボテンはしゃべる

バーバンクという有名な育種家がおられました。たくさんの園芸品種を創りだした方でしたが、彼が最後に育種されたのが、トゲなしサボテンです。

サボテンしかない乾燥地で、ヒツジが口をトゲだらけにして、痛々しくサボテンを食べているのを見て、トゲなしサボテンの育種を決意されたそうです。何度やってもうまくゆきませんでした。最後にバーバンクは「私が守ってやるから、トゲを出さなくていい」と何度も呼びかけながら育種されたそうです。そうしてできたのがトゲなしサボテンです。バーバンクのおかげで、乾燥地のヒツジたちは、口をトゲだらけにしなくても、サボテンを食べられるようになったのです。

この話は、本当にあった話です。サボテンはしゃべる。つまり、生きものどうし、意思の疎通ができるのです。となれば、さきほど私のいった、「栽培する人のクセが作物にあらわれる」というのも、間違いないことがわかっていただけるでしょう。

さて、愛情をかけてやること以外にも重要なことがあります。それは生まれ故郷を考えてやることです。これも愛情なのかもしれませんが。

たとえばジャガイモ。南米、とはいってもカンカンと太陽が照りつける赤道近く、それも標高2000メートルの高地がジャガイモの生まれ故郷です。ということは、直射日光は強烈で、日中は気温も相当あがるけれども、夜になるとグッと冷え込んでくる。空気は乾燥していて、あまり雨もふらない乾燥地。こんなきびしいところでジャガイモは育ったのですから、日本の高温多湿は苦手なのです。だからこそ、本州では春か秋に、北海道では夏につくるのです。雨もあまり降らない方がいいのです。雨が多いと、すぐに病気にかかってしまうのです。

こんなわけで、ぐうたらが大好きな人は、とりあえず、どんな作物でも生まれ故郷を考えてつくってやることにしましょう。そうして作物のクセを見抜くことです。

では、ジャガイモがでてきましたので、先ずはナス科から、順にコツを書いてゆくことにします。

ナス科 トマト

トマトは高温多湿にはめっぽう弱い

トマトの故郷は南米。ペルー・エクアドルの高原です。スペイン人が南米を侵略したときに、金銀財宝とともに、ヨーロッパへ渡りました。あまり好まれては食べられなかったようですが、イタリアに伝播してから食べ方が工夫されたようで、いまでもイタリアのトマト消費にはすごいものがあります。日本へは1700年頃渡来しました。

生育の適温は昼間が25℃くらい 、夜は18℃前後です。30℃を越すと、めしべが高温でやられてしまい、花が落ちたり、不稔になったりします。

そのわけは生まれ故郷を考えれば当然ともいえます。岩や石ころだらけの斜面をはいながら、隙間があれば根をのばし、また枝をのばしてゆきます。昼は太陽がカンカン照りつけ、夜はかなり冷えこむような環境で、しかもあまり雨が降らないようなところがトマトの生まれ故郷なのです。つまり、赤道に近い高原で、太陽光は強いが、乾燥した冷涼な土地が生育地なのです。このような環境に生育しているといっても、トマトの花は、葉の陰にかくれて、ひんやりとした地面近くに咲くはずです。だからこそ高温は苦手なのです。

乾燥地でトマトが水を吸収できるのは、夜の冷えこみがあるからです。たとえ昼間、乾燥していても、夜になると冷えこんで、夜露がたっぷりと岩に降りるのです。これをトマトが吸収するのです。その程度の水分で十分なので、過湿は大嫌いなのです。

これを要約しておきます。トマトは陽光植物で、太陽が大好き。好温性といって、温度が高いのを好みますが、かといってあまり温度が高いのは苦手。高温・多湿にはめっぽう弱いのです。

露地でトマトをつくる場合

日本の夏は、トマトにとっては湿気が多すぎて、無理なのかもしれません。露地でつくるなら、畝をできるだけ高くして、それも排水がよい土にしなければなりません。露地トマトの出来・不出来は、夏にどれだけ雨が降るかによります。こればかりは何とも仕方がありません。でも、雨の多い年ならナスの出来がいいのですから、トマトの不出来はがまんしてください。

トマトの性質と植え方・育て方のコツ

ところで、トマトは岩だらけの地面をはってゆくのだと書きました。トマトはつる性なのです。そのせいで、トマトは茎のどこからでも根を出します。この性質をうまく利用すれば、トマトを上手につくることができます。それは、ポット苗を定植するときに、葉の直下の軸のところまでを土に埋めてしまうことです。トマト苗は斜めか水平にして、葉のついているところだけを地面から出すのです。こうすると、土にうもれた茎のどこからでも根をじゃんじゃん出すので、根系が多くなり、そのぶん養分をひかえめにすることができます。こうして、薄めの養分を畝の土全体にまぜておくと、トマトがボケずにすくすくと育つのです。これは露地でもハウスでも植え方の基本です。もちろん支柱を立てる普通の栽培です。支柱を立てないのは加工用(ケチャップ)のトマトです。でも畝を高くしないとカビ病で×になります。

もうひとつ重要なトマトの性質をあげておきます。トマトは乾燥地で土壌水分が少ないところに生育しているので、少ない水で、わりに濃いめの土壌養分を吸収するという性質をもっています。それも、トマトが根系を広く張るという性質と無関係ではありません。なぜなら乾燥地では、土壌の表層近くに、下から土壌水分が移動してくるので、土壌の表層近くには養分が溜りやすいのです。

これは、日本の気象条件とはまったく違うので、通常こんな栽培条件はつくれません。つくれるのはハウスの中だけです。ところで、わりに濃いめの養分を吸収する、と書きましたが、ほんとうのところトマトは養分が少なくてよい作物です。土壌の水分をひかえめにして、薄めの養分を発達した根系から吸収させるようにすれば、中振りのしっかりした、おいしいトマトが収穫できるものなのです。これは原則としてハウス栽培です。

露地でやるなら60㎝高さのとてつもない畝がいるでしょう。こうすると水ハケがよくなるのです。こんなのは機械では無理で、スコップ1本で土を積み上げなくてはなりません。まるで土木工事ですが、実は私が目論でいる畑は不耕起・草生栽培で高さ60㎝、幅1mというトンデモない畝なのです。この話をしたら、みんながエーッ!としかいいません。畝の脇のところは草を生やして崩れないようにします。

これで4年はイケルと思っています。4年目にはヤマイモとゴボウを植えて、これを掘りとるついでに畝替えしようというトンデモないぐうたらを考えているのです。だれも賛同してくれませんが…。

さて、本題にもどって、植え方のコツをもうひとつ。

トマトを植えるときには、第一花房の向きに注意しましょう。苗を定植するころにはすでに花房がついています。黄色い小さなツボミがついているかもしれません。この花房を畝と直角、つまり植えている人に向かうようにすると、第二・第三花房も順に、同じ方向に向くのです。こうすると収穫するときが楽で手間が省けます。

実をつけさせるために、ホルモン処理をしたり、ハウスの中に蜂を放したりしますが、トマトは基本的に自家受粉です。本来はホルモン処理とか蜂をつかった受粉の助けは要らないはずなのです。ではなぜ必要になったのでしょうか。それは、うまく受粉しないと、デコボコや二つの実がくっついたような奇形果、果皮から中身が透けて見えるような窓開き果などができてしまうのです。受粉した種からでないと、果実が大きくなるために必要な生長ホルモンがでてこないからです。ではなぜ、受粉がうまくいかないのでしょうか。

理由は、ハウスが高温になりすぎて、正常な花粉だけではなくなってしまったこと。ムッとするような暑いハウスの中だと、花はどうしてよいかわからないのではないでしょうか。露地なら、湿気で花粉が正常でなくなってしまった、などが考えられます。

促成・抑制栽培(*1)のように、季節をずらすならともかく、普通の季節に栽培するばあい、雨よけ栽培(*2)をするならともかく、ハウスの環境は花が実を結ぼうとするには、きつすぎるのではないでしょうか。

(*1) 促成・抑制栽培 … 通常旬の時期より、出荷を早めた栽培を促成栽培、遅く出荷するための栽培を抑制栽培と呼ぶ。

(*2)雨よけ栽培 … トマトが湿気を嫌い、また苗時期は梅雨の撥ねで病気になることもあるので、雨を防ぐ屋根付きハウスで栽培すること。

トマトの理想の作型は?

トマトはつくるのがむつかしい作物です。日本の環境では、本来もっともむつかしい作物でしょう。むつかしいだけに生育の様子(作型)をみると、どんな育ち方をしたのかすぐに分かるのです。それではトマトの作型を書いてゆきます。

  1. 長方形 – 理想の作型は長方形です。下から上まで、葉の長さはおなじ巾にひろがり、しっかりした茎が上にのびてゆきます(支柱をしての話ですが)。茎は細くて結構。これが太くなると水のやりすぎと考えてください。
  2. 長方形その2 – 長方形でも長くなると、葉と葉の間、つまり節間が間延びしてきます。これは、夜温が高すぎるため、夜になってもぐんぐん生長するためです。
  3. 五角形 – 途中の葉が大きくてのびている形は光が弱かったためです。できるだけ光を受けようと、葉を広げるのです。
  4. かぎ穴型 – 下が長方形で、上に円が乗っている形、つまりかぎ穴型。密植すると、葉を広げようとして、となりどうしがけんかするのです。背比べで上にのびたトマトから葉を広げるため、かぎ穴のような形の生長をするのです。
  5. 逆三角形 – 下の葉は小さいが上の葉ほどよくひろがり、葉と葉の間隔も大きい。これは肥料が多すぎてやたらと葉ばかりが茂ったもの。おまけに潅漑水が多すぎたのでしょう。
  6. 三角形 – 下の葉は大きいが、上にゆくにつれてだんだんと小さくなる。これは途中で肥料が切れたと考えられます。また、水が少なすぎて、生長に必要な水や養分が吸収できなくなったからです。
  7. 正方形 – 大きい正方形というよりは、まともな長方形より丈が短いもの。これは低温・乾燥にあったため伸び悩んだのです。これで茎が太いと、水分のやり過ぎを示しています。
  8. 正方形その2 – (7)の正方形よりさらに小さな正方形になると、葉と葉の間隔が狭く全体に圧縮されたような育ち方になります。これは肥料が濃すぎた濃度障害か、低温にあって上下が押し縮められ、伸びが委縮したものです。

これほど作型が分類できるということは、それだけトマトがつくりにくく、ちょっとした環境の違いが、生育に大きな影響を与えている証拠です。でもこれをむつかしいとは考えないようにしましょう。それより、いろいろな作型をつくってみてはいかがでしょう。水をやりすぎたり、夜温を高くしたり、肥料切れをわざとさせてみたり。

何でこうなったのかナー…と思案するより、つくってみたほうが分かりやすいのです。それも勉強です。いろんな作型をつくれるようになったら、アナタはもうトマトづくりの大ベテランです。アソビで作型を変えてみて、大ベテランになれるとは。あんがい技術なんて、その程度なのかもしれません。要はあそぶこと。

トマトに必要な養分

養分は、窒素もさることながら、結構カリウムが必要なのです。窒素の倍は必要と考えてください。ちなみに窒素を基準にとると、リンは3分の1、カリウムは3分の2となります。こうした養分を補給するにはどうすればよいのでしょう。それは、以前に書いた草マルチを参照。植物にはたっぷりとカリウムが含まれています。刈り敷きをすると枯れ草から徐々にカリウムが流れ落ちます。トマトの苦手な土壌病害菌も、雨に当たって土がはねかえってトマトにつくこともありません。

窒素は少なめに、ボカシ肥をちょこっとだけ、葉色と作型をみながら、ときどき追肥してあげましょう。トマトの実でお尻に穴が空いたり、底から腐ってくるのは、カルシウム不足かホウ素の欠乏です。トマトを植えつける前に、蛎殻の大きいのを少し混ぜておきましょう。

後は水のやり方だけです。できるだけやりたいのをガマンして、水をやらないことです。葉が手の平を上にして指を曲げたみたいに曲がってくるくらいでもOKです。この状態で新芽(頂上のところ)がグタッと曲がってなければOKです。このくらいの水分でもわき芽をだすくらいの力はあるんです。

※※このコラムは『ぐうたら農法のすすめ』『有機農業コツの科学』の一部より、著者の許可を得て転載しております。