10.作物を育てるコツ その2 / ナス科 ナス・ピーマン・トウガラシ
ナス科 ナス
日本ではナスビ色というくらい、紫の濃いのが普通のナスビですが、よそでは白い色をしているのが普通です。白色のナスビはタマゴのように見えるので、egg plant といわれています。東南アジアでは紫色のナスビは気持ち悪いといわれるそうです。
ナス科といってもいろいろな作物がありますが、生まれ故郷では、前回のトマト同様、ほとんどが中米から南米が原産地となっています。これ以外のところに故郷があるのは、ナスでしょう。ナスはインドの北部、モンスーンが押し寄せる、蒸し暑いところが原産地です。
高温多湿な環境を好みますので、ナスは日本の夏が大好きです。水が好きな作物ですが、かといって排水が悪く、地下水位の高い状態では根が腐りやすくなり、アッというまに青枯れ病が発生して、枯れてしまいます。停滞水に弱いということです。したがって、ナスは排水のよい土地柄をえらびます。根は水を求めて、まず横に伸長し、それから地中深くもぐってゆきます。
初期生育について
ナスの第1花は、通常播種してから(種蒔きをしてから)60~65日くらいたったころ、本葉12枚が展開したころに咲きます。開花するまでの一ヶ月間が、栄養生長期のもっとも大事なときです。このときに、根の発達がほぼ決まるのです。したがって、栄養生長期の葉は大事に育ててやらねばなりません。ナスの葉は座布団にしろ、という言い伝えがあるくらい、この時期の葉は丈夫に、大きくつくるような管理がたいせつなのです。
大きくて丈夫な葉は光合成を旺盛にします。それが、根の発達をうながすからです。水やりと肥培管理は特に重要になってきます。
さて、第1花は、第7~9枚目の葉の間につきます。花はそのあと、葉2枚おきにつぎつぎと着花します。これを主茎とすると、第1花のすぐ下の葉の脇から側枝がでてきます。この側枝とその下の葉からでる側枝、計2本の枝は、もっとも勢いの強い側枝なので、これを大事に育てましょう。
枝は3本とし、これから出る孫枝には、1~2果をつけては、1芽だけのこして切り戻すような整枝をすると、成り疲れを起こさせずに、コンスタントに実を採ることができます。整枝せずに次々と着く花に実をずうーっとつけると、ナスの木が全体に疲れてきて、着花不良となったり、実が小さくなったりします。ナスは作期の長い作物ですから、途中で疲れさせないよう、はじめから長距離選手のような体力づくりを目指すのがコツなのです。
仕立て方のコツ
ナスは、葉の付け根と茎の間から芽を出してきます。これで枝分かれしてゆきます。仕立て方はいろいろです。V字型の2本仕立て、3本に仕立てて枝が邪魔にならないよう交互にしたり、思い切って4本くらい枝を伸したりと、自在に仕立てることができます。
仕立てるときの注意点といいますと、茶色く木化した茎はじょうぶですが、木化していない茎(緑色というか紫色というか)は折れやすいのです。しかも、ナスの実は重く、茎が曲ってしまったり、折れたりします。そこで、茎のところどころを支えてやらねばなりません。
茎を支えるのに、支柱をたてて、茎を沿わせてくくる方法もありますが、私は手間なのでぐうたらを決め込んでいます。ぐうたらな方法は、まず畝の両端に2本ずつ太い杭を打ち込みます。その次に地面の畝下部から40センチ、60センチと適当な高さに、ひもを水平にはりめぐらすのです。ナスの数が多い場合には中間にも杭を打ちましょう。
問題はこの次です。ナスの実がつくと、茎からヘタのところまでへの字型に軸(果梗)が伸びます。実を収穫するときに、ヘタの際で切り落し、果梗をそのまま残しておくのです。
この軸はすごくじょうぶなので、これをフック代りに水平に這ったひもにひっかけておくのです。風でナスが揺れて、フックがハズレないように、フックをひもにくくりつけておくとよいでしょう。
収穫するたびに、フックができるわけですが、ぜんぶをひもにひっかける必要はありません。必要に応じてフックをひもにくくりつけるのです。ひもを水平に何段か張っておくと、フックはどこかにかならず引っかかるのです。
水やりのコツ
苗を植えたとき、水をあまりやらずに、しばらくは乾燥気味で育てるのがコツです。こうすると、根張りがよくなり、土中の広い範囲から養水分を吸収できるので、生育の盛んなときでも水やりが楽になりますし、元肥もロスなく吸収されるというわけです。
水やりのコツは、土を乾かさないこと。畝の表面が乾いて白くなった状態を続けると、ハダニが発生してくるので要注意です。水分の蒸発を防ぐには、わらや刈り草でマルチをしてやるとよいでしょう。刈り草のマルチは地表を覆うので、草の防除にも役立ちます。ただし、株もとは覆ってはいけません。半径10センチは地面が見えるようにあけておきます。
ハダニの退治法
ハダニが出てきたついでに、ハダニの退治方法を書いておきます。インスタントコーヒーを霧吹でハダニにかけてください。コーヒーの濃度はアメリカン程度の薄さ。つまりティースプーンすり切り一杯を、小さなカップ(100cc)に溶かします。これをハダニがついている、葉の裏に吹きつけるのです。コーヒーの銘柄は問いません。なにもフリーズドライ製法のを使わなくてもよいでしょう。コーヒーのにおいを嫌がるのと、コーヒーが身体について乾くと、ニチャニチャになって、身動きが取れなくなるようです。そういえば…、我が家のテーブルにこぼしたコーヒーの跡形に、ちいさなハエがニチャッとくっついてもがいてたっけ…。
元肥と追肥のやり方
根張りのよいナスの根は、地中深く1メートル以上もぐってゆきます。作期が長い作物ですから、畝は大きめにとって、有機質をたっぷりとやっておきます。畝の表面から30センチより下に、ゆっくり分解するタイプの有機質、つまり堆肥をたっぷりとやっておきましょう。
ナスは作期が長く、お盆すぎに切り戻して、もう1回新しい芽をのばすと、おいしい秋ナスが収穫できます。それまでに養分が切れてしまうので、何度も追肥をしなければなりません。追肥はもちろん即効性のボカシ肥にします。畝の斜面や株間に薄くまきましょう。
エッ?刈り草でマルチをしているのに、どうやってボカシをまくのかって?めんどうだと思わない方は、マルチをそっとめくって、ボカシをまき、マルチをもとに戻してもよいでしょう。
マルチの仕方を工夫してもいいと思います。ナスが大きくなって繁ってきたら、マルチを取り除いてもいいでしょう。また、畝の斜面だけにマルチをしておいて、ナスが植わっている畝の上は、幅15センチほどをはじめから覆わなくてもいいでしょう。この株間にボカシを追肥してもいいのです。
保水力のある土では、はじめからマルチも何もしない場合もあります。畝に草が生えてきたら、ボカシ肥を薄く、まるで畝をビニールシートで覆うようにボカシをまきます。こうすると、ボカシ肥が分解したときに出る窒素化合物が直接草に当たるので、枯れてしまうのです。草にたいする対策は、いずれまとめることにしますので、ここではひとまずヒントだけにしておき、先に進みます。
ボカシ肥をあまりやり過ぎると今度は窒素過多になってしまいます。ナスの葉色は紫がかっているので、葉の色ではなかなか見当がつきません。こういうときは、茎の太さにくらべて葉が大きくて厚みがなかったり、実の色付きが薄くて大きくふやけたようになる(ボケナスという)などの現象で気がつくことがあります。
こうした現象はなかなか判断がつきにくいと思います。できたら一本だけ犠牲にして、思いきり養分をやってみたらどうでしょう。そうして、ボケナスになるのを実験されてはいかが。もっとも、他のナスとは離しておかないと、虫(ニジュウヤホシテントウ・ハダニ)がついたり、病気にかかったりしますので、後始末が厄介ですが。
切り戻し
切り戻しというのは、伸びた枝を短く切りつめることです。単に切るというのではなくて、用がすんだので、新しい枝を伸ばすためにも切っちゃえ、ということなのです。つまり、実の収穫が終わると、その枝は疲れているので、チョキンとやるのです。すると新しい芽がでて、立派な枝になるというわけです。
ナスの自家採種
ナスは自家採種が簡単にできます。自家受粉の種を毎年まいてゆくと、ナスビが長くなったり丸くなったり、だんだん固定してはきますが、結構おもしろい変化が楽しめそうです。
ナスの形によって、漬物や煮物・田楽や焼きナスなど、料理もいろいろ楽しめそうです。ちなみに、ナスビは栄養価はあまりないと考えてください。ダイエットにはよいかもしれませんが、そんなにたくさん毎日食べられるものでもなさそうです。なぜなら、ナスは身体を冷す野菜なのです。
身体の冷える野菜は、ナスの他に、トマト、ピーマン、キュウリなど、果菜類ということになります。だからこそ、暑い夏に食べてよいのです。旬がなくなった今では、冬にもナスやトマトを食べますが、身体が冷たい冬に、身体を冷す野菜を食べるというのは、常識で考えてもおかしいとは思いませんか。冬こそは、根菜類や地面になる野菜を食べて、身体を暖めなければなりません。これこそが医食同源という言葉になるのでしょうね。
ナス科 ピーマン・トウガラシ
生まれ故郷は、中米から南米の熱帯地域。やはりコロンブスが持ち帰ったのです。ピーマンよりトウガラシの方が、日本にわたってきたのが古いので、トウガラシの方が日本の風土になじんではいますが、それでもピーマンと同じように、乾燥と過湿の両方に弱いと考えてください。
育てかたのコツは、枝をしっかりと見て、整枝することです。ここのところを読んだら、さっそくピーマンを見てください。どういうことかというと、ピーマン、トウガラシは、花芽がついた下から二つに枝分かれすること。二つの枝にはかならず、太いのと細いのとがあること。太い枝は勢いが強く、その枝の上についた花芽は、細い枝についたものより早く大きくなるということです。結論をいいますと、勢いの強い太いほうの枝を残しながら、整枝してゆくのです。
よく、枝が低く生い茂って、いぬツゲの植木のように、全体の姿が球状になっているピーマンやトウガラシを見かけますが、これはあまり収穫は期待できません。そうではなくて、主枝をまっすぐに直立させて育てます。側枝は太いのを1本か2本にし、密植ぎみにした方が、よい実がたくさん採れます。密植ぎみにするのは、実に直接光を当てないためでもあります。光が当たると色が付いてしまうのです。
ピーマンの尻腐れは、カルシウム不足が原因だといわれますが、養分が多すぎて、果実の肥大が促進されることも大きな原因となります。要するにバランスなのです。となれば、バランスのとれた施肥をしているなら、なんにも心配することはないのです。
※このコラムは『ぐうたら農法のすすめ』『有機農業コツの科学』の一部より、著者の許可を得て転載しております。