有機農業をはじめよう/コラム記事

10. 畑地雑草の価値を見いだそう

雑草にはいろいろな捉え方があります。耕地雑草については、一般に「農耕地で人間の営んでいる経済行為に相反して、直接または間接に作物を害して生産を減少させ、農耕地の経済価値を低下させている作物以外の草本である(荒井 1951)」と考えられています。農耕地は食料生産の場である以上、生産を減少させるものは取り除かなければなりません。したがって、耕地雑草(以下、雑草)による光、水、養分の競合など、その害をいかに軽減するかが、栽培上重要です。その端的な方法として、雑草の生理生化学的機能を阻害し、生育を抑制あるいは枯殺する除草剤が、多く利用されています(平成16農薬年度国内出荷量:7.0万t、出荷額:1127億円、『農薬要覧』)。しかし、除草剤の利用は、①対象外生物への影響、②地下水、河川への流出、③抵抗性の発現、④生物相の単純化などの環境への負荷が懸念されるとともに、作物への害作用も指摘されています。

そのいっぽうで、雑草を「まだ価値が見いだされていない植物」と捉えることができます。ここでは、作物と作物以外の植物の関係にとどまらず、作物以外の植物が存在することで畑地の動物や土壌に及ぼす影響も考慮し、雑草の価値を考えてみたいと思います。

雑草にも役割がある~緑肥作物の間作を例に

換金を目的とした主作物以外の植物が畑地にあることは、主作物にとって害となるだけなのでしょうか。そこで、主作物の栽培時に緑肥作物(イタリアンライグラスと赤クローバの混播)を畝間に栽培 (緑肥間作) して、適宜刈り取って敷き草に利用(刈り敷き)することが、主作物の収量や栽培環境にどのように影響するのかを検討しました(図1)。

[畝間(通路)に緑肥を間作]

緑肥作物を導入(処理)することで、ミミズ類、クモ類、ヤスデ類、ムカデ類、甲虫類などの大型土壌動物群集が豊かになりました。なかでもクモ類やムカデ類などの捕食性動物が増加しました。餌となるさまざまな動物が生息できるようになったのでしょう。

主作物の播種前から緑肥処理した2003年は緑肥作物が主作物に比べて優先して、緑肥作物を刈っても回復が早く、主作物の初期生育期には刈り敷き量が多くなりました。その窒素吸収量は、年間10aあたり10kgにも達しました。いっぽう、主作物播種後の6月に緑肥作物を導入した04年と05年では、同2 kg以下でした。

スイートコーンの収量は、主作物の播種前に処理した03年は、無処理に比べて85%と低くなりました。しかし、主作物の播種後に処理した04年(101%)と05年(104%)は、逆に高くなりました(図2)。

秋ダイコンの収量は、無処理に比べて緑肥処理で3カ年とも高くなりました。特に、04年は生育初期のたび重なる豪雨による冠水のため欠株がみられましたが、緑肥処理では欠株が軽減され、収量比は無処理の196%にも達しました。コガネムシ類の幼虫の生息密度は、緑肥処理と無処理に大きな違いはみられませんでした。しかし、ダイコンのコガネムシ類の幼虫による食害は、緑肥処理で軽減されました。

一方、エダマメの収量は、緑肥処理は無処理の71%以下と、3カ年とも低くなりました。その原因は特定できていませんが、エダマメの根粒数が減少するなど、緑肥導入がエダマメの生育・収量の制限要因となっているのは明らかです。緑肥間作の導入には、主作物との相性も考慮する必要があります。

ここで紹介した緑肥間作の導入による利点として、①栽培環境が多様になり、土壌動物の餌や生息場所として利用される有機物が還元されるため、土壌動物群集が豊かになること、②土壌動物群集が豊かになることで、有機物の分解が促進され、結果として主作物の収量が向上すること、③生物群集が豊かになることで、害虫の被害が軽減されること、④土壌の物理性が改善されること、などがあげられます。さらに、緑肥間作の導入によって、主作物が利用しない養分を緑肥作物が利用し有機物として畑地に還元することができます。したがって、緑肥間作の導入はより環境保全的な栽培法でもあります。このように、緑肥作物を畝間に間作することでみられた利点は、雑草が畑地で果たしている役割と考えられないでしょうか。もちろん、雑草と緑肥作物は異なります。しかし、異質なものが畑地に組み合わさることで、単作・効率化を追求した栽培とは異なった発想が生まれるのではないでしょうか。

雑草の見方を変えてみよう

これからの農業には、畑地以外への環境負荷(地下水の汚濁、野生生物への影響など)への配慮が求められています。作物に害を与えない程度に雑草を抑制し、「作物が優先すれば他の植物(雑草)は多少あってもよい(あった方がよい)」と考えられないでしょうか。もちろん、作物を優先させるには、雑草の有無にかかわらず根が十分張っていない幼若期の中耕除草は大切です。

畑地の雑草をよく観察すると、季節によって、管理のしかたによって変わることに気づきます。施肥、特に化学肥料の施用は、作物だけでなく雑草の生育をも促進します。土づくりに心がけ、地力のある土に変われば草の質、量ともに変わります。これからの農業には、人間の目線のみではなく、作物や他の生物の目線に立った「農」の創造が求められています。ぜひ、作物と他の植物(雑草)との関係を大切にした栽培法を工夫してください。

※この文章は「ながの農業と生活」 Vol.506 より、著者の承諾を得た上で掲載しております。