有機農業をはじめよう/コラム記事

7. 生きものの生息場所としての畑管理

慣行となった近代化農業は、地力や病害虫の発生状況が、谷一筋、田畑一枚の違いによって微妙に変わるにもかかわらず、化学肥料、農薬、大型機械などを用いた画一的な技術で対応してきました。しかし、土壌の母材、地形、気象条件などが異なれば、栽培環境が異なるのは当然のことです。すなわち、農地で起こる状況の変化に応じて、それぞれに適合した管理を行うには、それなりの工夫が必要です。

生きものには特有の餌や生息場所がある

畑地には、ミミズ、クモ、ヤスデ、ムカデ、甲虫などの大型土壌動物、ヒメミミズ、トビムシ、ササラダニなどの中型土壌動物がみられます。これらの動物(野生生物)は、それぞれ特有の餌や生息場所がなければ生きてゆけません。たとえば、有機物の分解に関与しているササラダニの垂直分布をみると、不耕起・自然農法畑では、被覆と表層0-5cmの土壌中に全体の99%が生息していました。耕耘による作土の撹乱は、表層土壌の階層構造を破壊し、土壌動物の種数や生息数を大きく減少させます。すなわち、栽培管理の違いによって、動物の種類や生息数に違いがみられます。

農地を生態系として捉える

自然農法や有機農業など環境の保全に配慮した農業を行うには、作物以外の動植物を排除する管理から共存・共生をすすめる管理への転換が必要です。さらに、生きものの力を食料生産に利用するには、食料生産の場としての農地に加えて、周りの環境と関係を持つ生態系としての農地の捉え方が必要です。

農地を生態系として捉えるとは、農地に生息している多種類の生きもの全体と、それらの生活の基盤となっている土壌、水、気象などの物理的化学的な環境を全体として一つのシステムとして捉えることです。そして、生きものの生存基盤が他の生きものの存続にあること、一つの生きものが死んでその死体が分解されることが他の生きものの生活を育み、そのことで物質がさまざまな種の間を受け渡されて巡ること、生きものが生活することによって新たな環境をつくり出し、その環境が生きものの生息を許すことなど、それぞれの生きものどうしや生きものと環境との関係に注意を払うことが大切です。

試験開始後5年目の今年、不耕起・有機質肥料の施用・緑肥間作を導入した区で、ヒバリのひなが生まれました。試験に用意した8区画のなかで、土壌動物が最も棲みやすい環境として管理した区をヒバリが産卵場所として選んでくれました。隣接する耕起処理や化学肥料処理をした区ではありません。このことを通して、生きものを育む栽培管理の継続が、私たちの生息環境を守り、子孫に残せる環境となることを確信しました。

[試験圃場の全景 全8区画]

[ヒバリの卵とヒナ]

※この文章は「ながの農業と生活」 Vol.512 より、著者の承諾を得た上で掲載しております。