有機農業をはじめよう/コラム記事

6. 共存から共生へ

病原性微生物の抑制作用

トビムシ類の栽培に関わるはたらきのなかで、有機物の分解作用とともに、病原性微生物を抑制するはたらきが知られています(写真1)。

[病原糸状菌を食べるトビムシ(中村好男氏撮影)]

元東北農業試験場(現在名:東北農業研究センター)の中村好男さんらは、病害が発生した土壌にトビムシ類を入れたものと入れないものを用意して、作物を栽培しました。この結果、キュウリ苗立ち枯れ病(図1)、キュウリつる割れ病、ダイコン萎黄病、キャベツ苗立ち枯れ病、アズキ白紋羽病の感染発病をトビムシ類が抑制することが明らかになりました。

[トビムシがキュウリ苗立ち枯れ病を抑制(右がトビムシ放飼、中村好男氏撮影)]

トビムシ類の行動を室内で観察したところ、病菌と作物根があった場合、菌で育ったトビムシ類は根の周囲を動き回っても根は食べないそうです。そして、菌糸の伸びる先端をトビムシ類が食べて、菌糸が作物の根に到達できないことを明らかにしました。土壌中でも、このようなことが行われ、作物の感染発病が抑制されているのでしょう。

共存から共生へ

動物・植物のみならず微生物に至るあらゆる生物は、外界、すなわち環境(ある生物の周りのものすべて)から切り離しては生きていけません。植物は、エネルギーと炭素は光合成で獲得できます。しかし、窒素などの栄養源は、有機物を分解し植物が利用できる形にしてくれる土壌動物や微生物に依存しています。多くの生物はさまざまな関係をもちながら「共存」しています。さらに、異なる生物が互いに緊密な結びつきを保って生活している状態を「共生」と言います。たとえば、トビイロケアリがワタアブラムシの排泄する甘露を餌として利用する代わりに、ナナホシテントウなどの捕食者からワタアブラムシを守っているような「アリとアブラムシの関係」です。ほかにも、動物と植物にはさまざまな質の共生関係が知られ、直接的には関係ない生物が間接的に影響していることもあります。

畑に共生関係を

トビムシ類が植物遺体や菌糸を食べたり、排泄したりして畑で生活することで、作物の生長に適した環境が形成されます。加えて、作物が生育量を増すことで土壌中に有機物が還元され、その結果、トビムシ類の餌が増えて、繁栄しやすい環境が形成されます。このような作物とトビムシ類の関係は共生関係(相利共生)と考えられます。畑に共生関係を再生するには、大量生産された市販種子ではなく、それぞれの地域、それぞれの畑で能力を発揮する自家採種された種子を利用することが重要です。そして、自家採種された作物の生長と土着の生きものとの関係を観察することが大切だと思います。そしてそれは、化学肥料や農薬に頼らない栽培法のヒントとなるでしょう。

※この文章は「ながの農業と生活」 Vol.507 より、著者の承諾を得た上で掲載しております。