水稲

水利の確保と水田の選定
水利(水田に使う水)には河川・ため池・井戸(地下水)などがあり、使える水の量と水質を把握します。水量は多い方がよいのですが、同時に排水の確保も必要です。水質では水温・pH・栄養分・汚染度などを把握しておき、必要に応じて温水路や緩衝池などの対策を行います。なお、地域によっては水利費が必要です。

水路がコンクリートやパイプラインの場合は、水のコントロールは容易ですが、生きものの棲息には不利なので、ビオトープなどを活用します。土の水路では、水路の整備に労力がかかりますが、水生生物は豊かになります。

有機栽培に適した水田の大きさは、田植機があれば30~50a、手植えの場合は10a程度です。水田の区画が大きくなると、田面を均平にすることが難しくなります。また、粘土・砂土・埴壌土など土質によって田面から水の減る量(減水深)が、土質や腐植の含有量によって地力が異なるので、よく観察しましょう。

品種の選定と採種、育苗
品種は、地域の気候や緯度によって異なります。各都道府県で奨励品種(数品種)が指定されていますので、参考にしてください。在来品種や赤米・黒米などを栽培して特色を出すこともできます。ただし、異品種が混入しないように清掃と区分の徹底が大切です。

イネは自家受粉性が高いので、自家採種が容易に行えます。自家採種は手刈りを行い、稲架掛け後に足踏み脱穀機などで脱穀します。

育苗箱は、平型とポット型があります。有機栽培や手植えにはポット型が有利です。使用する床土は、落ち葉堆肥を含んだ酸性の山土が適切で、石灰を含んだアルカリ性の畑土は不可です。床土の肥料には、米ぬかやくず大豆を入れた堆肥を篩でふるって使います。

苗代育苗のポット成苗

種籾はよく脱芒(ノギを取り除くこと)し、比重1.10~1.15の自然塩で塩水選を行い、沈んだ種籾を使います(比重は生玉子を塩水に入れ、水面に浮き上がれば1.10)。毎日水を交換しながら積算温度(日平均気温×日数)100日℃(約10日前後)まで浸種後、乾燥または冷蔵(10℃以下)保管します。

種籾の芽出しを行う場合は20℃程度で、行わない場合はそのままで、1箱あたり40~80gの薄播きにします。育苗は、水田の一部を使う苗代方式とハウスや畑で行うプール育苗方式があります。発芽には酸素が必要で、過剰な水分は発芽不良の原因となるため、排水の確保が必要です。発芽温度は10~30℃で、ビニールを使う場合には高温に注意が必要です。5~6葉の成苗を目標に育苗します。

水田の土づくりと施肥
土づくりのための堆肥散布や有機質の補給は、稲刈り直後が望ましいですが、積雪などで秋作業が困難な場合は春に行います。減水深の大きい砂質土壌では、窒素やリンの多い有機質肥料を多めに、粘土質土壌ではカリや苦土の多い有機質肥料を少なめに施用し、腐植の多い水田は無施肥で栽培します。

乾田では秋に耕起して冬の雑草生育を促し、湿田では春に耕起します。いずれも浅く均一に耕起して、雑草などの有機質は表層にすき込みましょう。水利があれば冬季湛水(ルビ:とうきたんすい)も可能です。

畦ぬり、代かき、田植え
畦ぬりと代かきは、ていねいに行います。漏水は雑草の発生原因になるからです。代かきをすると雑草の種子が表層に移動し、発芽が始まります。1回目で雑草の発芽を促し、10~15日後の2回目で発芽した雑草を埋め込むか浮かせます。その後は田植えまで湛水状態を保ち、田面を露出させないように管理しましょう。

代かきを2回行い、成苗を育苗するため、田植えは5月下旬から6月に行います。田面が露出すると雑草が発生するので、5㎝位の湛水状態で行います。田面が見えないので、ゆっくりとていねいに植えましょう。栽植密度は㎡あたり12~15株、1株本数は1~3本です。

深水中のイネ

水管理と雑草管理
田植え後15~20日は、10cm程度の深水管理を行い、ヒエの発生を防ぎます。その後は徐々に水深を下げ、田面が露出したら入水を繰り返す間断潅水をします。水田の種子性雑草(ヒエ、コナギ、ホタルイ)は、有機物の表層での腐植化(トロトロ層)と2回代かきによって抑制します。田植え直後の米ぬかの表層散布も有効です。球根性雑草(クログワイ、オモダカ)は冬季の水田の乾燥化、2毛作や田畑転換によって対処します。除草機を使用する場合は、田植え後7日前後が効果的です。

畦の雑草は、田植え前と田植え後に2~3回、5㎝の高さに刈ります。畦の草にはカエルやクモなどの天敵生物が生息します。なお、畦の雑草に留まっているカメムシの侵入を防ぐために、出穂以降は草刈りを行いません。

収穫と乾燥
稲刈りの目安は、稲穂の8割が黄熟したころ。コンバインなどで収穫した生籾は、2時間以内に乾燥機に入れて送風・乾燥させます。手刈りの場合は稲架掛けし、10~15日間天日乾燥します。乾燥後の玄米水分は15%です。

籾摺りは籾摺機で行い、玄米に籾が混入しないように注意します。籾で保管する場合は、米の紙袋などに移して乾燥した場所へ。玄米で保管する場合は、玄米用の保冷庫(15℃)に入れ、虫やネズミの侵入を防ぎます。

文/舘野 廣幸(舘野かえる農場)