4.続・土を育てる具体的な方法
刈敷きはいいことずくめ
ビニールマルチがよく使われますが、有機農業をめざすわたしたちは、ビニールなんぞは使えません。なぜなら、塩化ビニールは合成化合物だし、なによりも、焼くと有毒なダイオキシンや塩素ガスが発生します。自然とともに生きようとする有機農業では、ホンネもタテマエもビニールを使わないようにしましょう。
刈敷き、つまり草マルチはビニールマルチの代わりになるだけではありません。刈敷きはまさにいいことずくめなのです。そのいいことを説明しましょう。
[いいことその1]
草を刈って地面の上にどんどん積んでおくだけで、下の方から徐々に分解して、養分が土のなかに入ってゆくのです。分解も養分を持ち込むのも、そしてもちろん土をつくってくれるのも土壌生物です。
[いいことその2]
雨が降っても畝の土が流れません。ビニールよりいいのは、雨水が適当な量だけゆっくりと草マルチの間を伝って流れ落ち、土にしみこんでゆくのです。強い雨が降ったとしても、余分な雨水は草マルチを伝って、流れ落ちますから、せっかくつくられた団粒が雨粒でこわされたりしません。これには土が堅く締らないという利点と常に適度な湿気が保てるという利点があります。
[いいことその3]
草マルチの方がビニールマルチよりも地温が変化しません。草を厚く積んだ分、断熱材と同じ効果があり、たとえカンカン照りでも土の表面は涼しくて湿り気があり、厳しい寒さでも凍ることはありません。温度変化が少ないということは、作物の根や土壌生物たちが安心してノビノビ育ってゆけるということでもあります。夏は涼しく、冬暖かで、乾きすぎず、しかも過湿にならない。まるで理想的な家みたいですね。
[いいことその4]
ビニールマルチでも同じですが、草マルチは雨が降っても土を跳ねかえさないので、作物に土がついたりしません。このため作物が土壌病原菌に感染しないのです。
{いいことその5]
敷いた草のなかがいろんな虫の住みかや隠れ家になることです。ということは、作物に悪さをする虫の天敵もたくさん隠れていられるということです。多少ヘンな虫がいてもいいじゃないですか。多様性の世界をつくりだせばいいのですから。
そっと積みあげた草をよけて地面をみてみましょう。きっとミミズがいるはずです。トビムシも目につきます。刈り敷いた草も地面の近くではだいぶ分解しているはずです。上からどんどん積んでゆけば、自然と有機物は土の中にはいってゆきます。ほどなく団粒もできるでしょう。こうなると土は生きてくるのです。
ふたたび草生栽培について
不耕起草生栽培
「草生栽培」には、耕起しながら草生栽培をする方法と、不耕起で草生栽培をする方法があります。
不耕起草生栽培の基本は多年生の草を使うことです。かならずマメ科牧草が加わっています。マメ科牧草でも赤クローバやクリムソンクローバのように、株だち性でランナーを出して広がってゆかないものがよいでしょう。広がるやつはあとで始末に困ることが往々にしてあるからです。もっとも、畑でなく果樹園なら広がってゆく方がありがたいのですが。
重複するかもしれませんが、もういちど書いておきます。マメ科牧草にイネ科牧草を加えます。この二つはケンカしません。その理由は根系がまったく違うからです。つまりマメ科は深根性で、根が地中深くはいるのに対し、イネ科の方は浅根性でヒゲ根が地表近くの浅いところに広がるからです。マメ科は窒素固定(*1)をやってくれますから、土のなかに窒素分がしだいに増えてきます。イネ科はヒゲ根をたくさん伸ばしますから、土のなかに有機物を大量に鋤きこむのと同じ効果があるわけです。
(*1)窒素固定 …生物が空気中の遊離窒素を体内に取り込み、アンモニアまたはその誘導体であるアミノ酸(たんぱく質)などに還元する現象。その作用を営むのが窒素固定菌という土壌中の細菌で、単独窒素固定細菌と、マメ科植物につく根粒菌などの共生窒素固定細菌がある。
不耕起草生栽培で気をつけること
不耕起草生栽培には注意することがいくつかあります。
[1番目の注意点]
両方の牧草ともあまりはびこらせないことです。はびこると作物が育つ余地がなくなります。そこで牧草は適度に刈る必要があるのです。刈るときの注意は、先月号でも書きましたが、株元から5センチは残してその上を刈ること。さもないと牧草の若い芽まで切ってしまうので、あとの伸びがゆっくりになります。刈った牧草はそのまましばらく干して、かき集め、作物の刈敷きに使いましょう。
[2番目の注意点]
数年たったら牧草の根を切ってやることです。これは牧草の根がはびこりすぎてマット状になり、土のなかに水が入りにくくなるからです。とくにイネ科の牧草を刈り込むと、どんどんとヒゲ根がはびこりマット状になるのです。全面を切ってひっくり返す必要はありませんが、少なくとも4分の1か、5分の1程度の面積を、スコップの先をグラインダーでとがらして、スコップの横幅ほどの広さで、土のなかにブスブス突き刺して根を切ります。両方から切ったあとは、土くれをスコップ満杯の半分位に切りながらひっくり返してゆくのです。土はやわらかくなっていますから、労力はそんなにかかりません。ひっくり返すのがじゃまくさいならブスブスと切るだけでもよいでしょう。あるいはプラウでひっくり返すという手もあります。ほんとはこの作業も馬か牛の方がいいのですが。
[3番目の注意点]
水はけがよすぎる農地では、この不耕起草生栽培があまりよくないことです。その理由は、マメ科牧草が深根性なので、土の深いところの水分を取ってしまうため、上根しか出さないような作物やイネ科の牧草が水分不足になるおそれがあるからです。もっとも、トマトやピーマンのように過湿をきらう作物ではかえっていいかもしれません。
[4番目の注意点]
この方法を長く続けると、土壌中にミミズがたくさん増えるため、モグラや地ネズミが穴をジャカスカ掘りまくることです。せっかく作物の芽が出てきたときに、その下を穴だらけにされ、苗が枯れてしまったりします。
したがって、不耕起を長く続けることは感心しません。せいぜい5年が限度でしょう。5年経ったら一度全面を耕起してしまい、モグラ退治をかねることも必要かもしれません。ただし、モグラと共存している農家もいます。その方法は、牧草を生やす場所と、作物を植える場所とを交互に使い分けることです。モグラは有機物がたっぷりあって、ミミズがたくさんいるところに穴をあけてゆきますので、作物を植えるところには刈敷きだけを、それも畝の肩だけに限定したらよいのです。こうするとモグラは牧草のはえているところだけを穴だらけにするので牧草の勢いもそがれ、かえっていいでしょう。
モグラや地ネズミの退治方法として、畑の中に2メートルほどの止り木を立ててやるのです。ここにフクロウやミミズク、ハヤブサなどがやってくるというわけです。もっとも、まわりが農薬だらけで、山が売れなくて、手入れもしていないスギの人工林だと、フクロウやミミズクはやってこないでしょうね。
手をかける草生栽培
前回では「手のあまりかからないぐうたらな草生栽培」を紹介したので、「手をかける」方法についても書いておきましょう。
「手をかける草生栽培」というのは、牧草を栽培する農地をきめておき、ここに畜産廃棄物をたっぷり入れ、ガンガンと牧草をつくる方法です。
機械を使うのがじゃまくさい、というか私には気に入らんのですが、ハンマーモアーで牧草を引きちぎるように刈るのは牧草にとっても好ましくありません。なぜなら叩かれ、引きちぎられたところが傷むからです。もっとも好ましいのは大鎌です。刈るときのコツは、前回の「草はなんどでも刈りましょう」と同じ要領で、バシバシ刈って、しばらくそのまま乾かします。生だと重くて大変ですが乾くと扱いやすいので、これを集めて他の畑に使うのです。原則は前にもいったように刈敷き、つまり草マルチです。畝の上にどんどん積んでゆくのです。
畜産廃棄物がたくさん入った畑では土のなかの養分のバランスが崩れているので、直接作物をつくるととんでもない目に会います。そこで、いったん養分を牧草に吸わせて、草という有機物の格好にして、バランスのとれた養分を他の畑に持ち込むのです。こうすれば畜産廃棄物をたっぷり入れた畑の養分バランスもよくなるというわけです。
さて、このあたりで第2回目で保留にしていた「土つくりの具体的な方法」(1)~(3)のうちの
- ソルゴー・デントコーンなどのイネ科やマメ科の牧草のような有機物生産能力の高いいろんな植物を栽培し、たえず有機物を土の中に入れてやること、を終わります。
- (1)の項目と関連して、輪作体系を導入すること。
- 間作・混作のように、種類の違う(科の違う)作物を同時に、あるいは連続して栽培すること。
にいきましょう。
輪作について
昔はどこにでも輪作体系がありました。忌地(*1)をおこしやすいトマト・ナスビ・スイカ・エンドウなどは、数年間、後作に他の作物を植えないと、同じ土地では育ちません。スイカやエンドウは特に忌地がひどい作物です。そのためスイカやエンドウをうまく挟み込んで、5年あるいは7年といった周期で、次々と作物を作る方法が江戸時代に完成していました。これが輪作体系です。
(*1)忌地(いやち) … 農地に同種の作物をくり返し栽培すると、病気が出たり、生育途上で枯死するなどの障害をおこすこと。連作障害ともいう。
輪作のコツは、輪作体系を知らなくても可能です。輪作のヒントは、間にマメ科作物をかならず入れること。養分の吸収力の強い、たとえばトウモロコシやキビのような作物は、土が肥えるような作物のあとにつくること。これは掃除作物ともいうからです。養分をたっぷりやらないと育たない、トマト・キュウリのあとで、養分が土壌中にたくさん残っているときに、ハクサイやキャベツを植える。アブラナ科のあとで同じアブラナ科をつくらない。これはナス科のあとにナス科をつくらないのと一緒です。
輪作でおすすめなのが、トマトやジャガイモの後作にハクサイを植えるのです。こうするといい球ができます。トマトやジャガイモは肥食いだといわれています。ところが、本当のところは養分吸収力が弱いから濃いめに肥をやらないと育ってくれないのだ、ということなのです。そこでトマトやジャガイモが吸収し残した養分を、ハクサイのようにびっしりと根系を発達させて、あるだけの養分を吸収してくれる作物をつくれば肥料が節約できるということなのです。
間作・混作について
ほんとうの草生栽培というわけにはゆきませんが、これは同時にいろんな作物を植えてゆく方法です。仲のいい作物どうしをいっしょに植えてやるのです。収穫前に次の作物の種を播いたり、苗を植えたりする連続耕作もこの方法に入ります。
たとえば、トウモロコシを収獲したあと、そのまま立てて、ところどころ補強しておき、その下にダイコンを植えます。ダイコンが収穫できたら、エンドウを播き、蔓をトウモロコシにからませるのです。エンドウの収穫が終るころには、トウモロコシはボロボロになっていますから、補強材を取り除いて倒してしまいます。そのまま刈敷きと同じように使えます。
ダイコンを植えたら、ところどころに10株に1株くらいネギを植えます。ニンニクでも結構。こうするとイヤな虫がやってきません。余談ですが、バラの根元にニンニクを植えておくと虫がこなくなります。園芸家の一部で応用しています。
間作・混作の基本は共栄作物です。つまり同時に植えてやると、おたがいに生育を高めあうという、まるで恋人同志や仲のいい夫婦のように相性がいいのです。
どんな例があるかって?根の張り具合が同じだとケンカしますからダメですが、マメ科とイネ科、アブラナ科とネギなど、相性のいい作物があります。あとは作物を育てる人が仲人になってください。うまく人をくっつける仲人さんは、相性の善し悪しを第六感でピンと見極めているのですから。うまい仲人になるには、まず作物と仲良くなることです。おたがいに日陰になるような相手どうし、根の張りがケンカするような相手は、ぜったいうまくゆきません。
※このコラムは『ぐうたら農法のすすめ』『有機農業コツの科学』の一部より、著者の許可を得て転載しております。