3. 有機物の分解は微生物と動物の相互作用
大きさや食べ物の異なるさまざまな土壌動物が土のなかで生活しています。地表に堆積する落ち葉などの有機物は、土壌動物に対して生活の場を与えるとともに、それ自体が食べ物となります。ヤスデ類やワラジムシ類のような動物はこれらを食べ、未消化の状態で排泄しますが、この過程で、食べられた落ち葉などの有機物は、細かく、こなごなに砕かれます。そして、食べ残された有機物や糞は、それを餌とする微生物(細菌類、菌類)の生活と大きく関わっています。
ワラジムシの摂食活動が微生物のはたらきを活性化する
ワラジムシが落ち葉の分解過程に及ぼす影響を調べるため、同量の落ち葉に頭数(0-10頭)を変えて飼育した実験があります。ワラジムシがいると、微生物の呼吸量(有機物の分解速度の指標となる)が最大で1.9倍に増加し、この増加傾向が長期間持続しました。しかも、数が多いほどこの傾向が強くみられました。
[ワラジムシ(布村1999)]
この原因として、ワラジムシが落ち葉を食べることによって、落ち葉は細かく砕かれ、単位面積あたりの表面積が大きくなり、微生物が増殖できる生活空間が増加したことが考えられます。また、表面の菌糸の網目がワラジムシによって壊されることで、他の菌類や細菌類の活動が促進されることも考えられます。さらに、ワラジムシの排泄物に含まれる窒素などの栄養分が微生物の活動を活発にします。
一方、ワラジムシにかみ砕かれた落ち葉の断片は、ワラジムシの消化管内で、管内に生息する細菌やワラジムシの消化酵素のはたらきを受けます。ミミズ類と同じように、消化管を通過することで、落ち葉の断片はさまざまな生化学反応を受け、物理的、化学的にも異なる物質に変化します。
実際の落ち葉の分解過程はさらに複雑で、そこには食べ方の異なるさまざまな微生物や動物が関与しています。
[落ち葉の分解に関与する生きものたち(藤川1979)]
指標動物としてのワラジムシ
体長10cm内外で、7-8対の脚と尾端に1対に短い突起物をもち、体を丸めることができないワラジムシ(草鞋虫)のなかまを公園や庭で見た方もおられると思います。ワラジムシ類はカニやエビと同じ甲殻類に属します。したがって、元来海産のなかまで、甲殻類のなかでは数少ない陸上動物です。水分要求度が高く、暗く湿った場所で生活しています。地表面の落ち葉などに産卵し、地表の有機物堆積層で一生を過ごします。主に、湿気のある落ち葉などの有機物を食べています。畑で見られることは珍しく、不耕起・自然農法畑では見られますが、慣行栽培畑ではほとんど見られません。このことから、ワラジムシ類を畑の生物相の豊かさをみる指標動物として捉えることができます。
※この文章は「ながの農業と生活」 Vol.504 より、著者の承諾を得た上で掲載しております。