研修受入先の心得

受入農家の条件
研修受入農家には、品質の良い有機農産物を生産する技術力と安定した経営能力が当然必要です。同時に、地域の慣行農家や住民、行政や農協とも良い関係を築けるような人間性、社会性も必要とされます。さらに、研修生の人生の一端を担っているという自覚を持って研修生と向き合うことが重要です。

研修生は単なる労働力ではありません。農業や地域の担い手として、農業・農村の維持・発展に欠かせない貴重な人材を預かっているという責任感を持って対応しましょう。

研修希望者のなかには、農業経営を重視している方もいれば、半農半Xなど農業以外の収入を得ながら農業と関わって生きるために学びたい方もいます。また、少量多品目生産の提携重視タイプもあれば、品目をある程度しぼって規模を広げたいタイプもいます。自分と同じビジョンを持った研修希望者を受け入れることが、研修生とのミスマッチをなくすために大切です。そのためには、受け入れる前に、自らの経営に対する考え方や栽培作物、技術などを、研修希望者に理解できるように伝えることが欠かせません。

ミスマッチは、研修生にとって「労働者として扱われた」との思いが強まり、研修受入先にとっては「手間ばかりかかるし、やる気があまり感じられず、いない方がましだ」など、お互いに良い結果を生みません。どんな職業にも、向き不向き、適不適があります。またお互いの相性もあり、一定の体験期間を設けるなど、ミスマッチを少なくする手立てが必要です。

何を教えるのか
まず、栽培技術を身に付け、出来たものを売るためのマーケティングが不可欠です。有機農業の考え方や土づくりなどの基礎的な理論をはじめ、多様な農作業体験を積み重ねながら、栽培技術とマーケティングを研修生に獲得させることが求められます。

研修初期には、どのような経営を目指すのか漠然としている研修生も少なくありません。そのため、多くの品目の栽培を体験させることが大切です。そのうえで、農業機械の操作はもちろん、収穫や袋詰め、出荷、顧客との対応などを体験させてください。

一口に農作業と言っても、土づくりから各種作物の肥培管理、耕種的防除など多様です(表1)。季節や天候によって、各作物の生育段階は微妙に変化し続けています。その変化にきめ細かく対応する繊細さや作業の優先順位の把握と機敏な実行力、すなわち農作業におけるマネージメント力も重要です。

そのためには、各農作業における適切な対応と一つひとつの作業が「上手く、早く」できるように訓練しなければなりません。文字や数値には置き換えられない生育段階ごとの感覚的な作業内容や手順を、手本を示しつつ、あえて失敗もさせるという、教える側のテクニックも必要です。体験値、すなわち経験が多ければ多いほど、導かれる結論の精度は高くなります。

あらかじめ、各作物について1年間の作付計画を明示し、多種多様な農作業とそこから得られる体験の積み重ねを通して、頭だけではなく研修生の体に覚え込ませる内容を工夫しましょう。同時に、それがなぜ必要か、折に触れて理由を説明することが大切です。

そして、それぞれの栽培技術(農作業)の習熟度(きれいさ、ていねいさ、早さ)を、項目ごとに定期的に評価することも欠かせません。段階ごとに、出来ていること、出来ていないことを確認しあうことも必要です。具体的な研修計画を立て、研修内容を「見える化」すれば、研修中、就農後の漠然とした不安が払しょくできます。

経営についても栽培技術と同様に、自ら考える力を身に付けることが大切です。そして、マーケット情報をきちんと伝え、作物の栽培方法だけではなく、農業を会得してもらう姿勢で、常に農業経営を意識させてください。

また、研修生の就農に向け、受入先には地域住民との橋渡し役として、明文化されていない住民の役割や農村の生活についても、伝えていくことが求められます。さらに、雨天の日や比較的作業時間の余裕がある時期に、受入者自身のさまざまな経験をまとめて語ったり、書籍・雑誌・DVDをテキストとした座学を行い、周辺地域で行われる講演会や勉強会への参加を勧めると、より効果的です。

研修生はともに学ぶ仲間
研修生の技術力と人間力をいかに高めていくのか。それには、「ともに学ぶ」という姿勢が、受入農家に求められます。

「研修生は単なる労働力ではなく、ともに学ぶ仲間である」という誠実さ、「立派に育ってほしい」という情熱、「農業を通してどのような社会貢献と自己実現ができるのか」という謙虚な姿勢が、共感を呼びます。自らの仕事を通した社会貢献、自己実現のイメージ化は、学び働き続けるためのモチベーションの維持に欠かせません。

研修生には、教えるのではなく、伝える気持ちで接し、自分に分からない質問や事柄があった時には、知ったかぶりをせずに調べ、一緒に解決することが大切です。他の農業者の技術や仲間や研修会で得た情報を伝え、「自分も学んでいる」という姿勢を示し、ともに学び続けることの大切さを共有することで、研修生との信頼関係が構築されていきます。

文/山下 一穂・千葉 康伸(NO-RA~ 農楽 ~)

ガイドブック「有機農業をはじめよう!研修生を受け入れるために」4-5ページ

研修受入先の皆様へ」3ページ、「有機農業の考え方」6-7ページも参照ください。