病害虫対策

土づくりがポイント
有機農業における病害虫対策の第1は、土づくりによる作物の健全生育です。作物種ごとに、どのような状態が健康な育ち方なのか常に観察し、確認しましょう。多くの有機農業者の経験によれば、多投入による窒素過多は不健全生育に傾き、生産量の増大をねらいすぎないやや低投入が作物の健康を引き出すと言われています。使用する有機物は、植物由来で窒素含量がやや少なめの完熟した発酵有機物を主体とします。野草や落ち葉を主原料とする堆肥や、生ごみなどの発酵促進材料を混ぜたモミガラ堆肥がその例です。緑肥作物をすき込む際も、地上部を破砕してしばらく放置し、水分含量を減らしてから浅くロータリーをかけるなど、土中で緩やかな好気的分解が進むような耕し方を工夫しましょう。

次は、農地内外の生態系を豊かに育むことです。土の内外にミミズが多くなる。畑の地面に小さなクモやゴミムシなどがいつもはい回っている。作物の茎や葉にテントウムシや小さなハチやカエルをたくさん見かける。田畑にそんな環境を作り出すことができれば、もうバッチリ。生物多様性の田畑づくりが病害虫回避の第2の技術基盤です。

こうした圃場の生物多様性は、作物以外の植物との共存がポイントです。過度の除草は生態系を貧弱にすることがあるので、季節や作物種に合わせた雑草との上手な付き合い方を探ります。さらに、天敵となるテントウムシやハチを呼び寄せる植物(バンカープランツ)を植える、畝間にムギやヘアリーベッチを播種して草生させる(リビングマルチ)などして、作物を守ってくれる多様な生きものの誘導を図ります。

栽培管理を工夫する
耕し方や作物管理の工夫で対策したり、葉面の拮抗微生物を元気づける活性液など各種資材を用いるほか、害虫忌避効果が期待されるハーブの混植やセンチュウ対抗植物の輪作導入など、有用植物の利用方法は多様です。土中の小動物(ミミズやダニ、トビムシ、無害なセンチュウなど)は有機物分解で作物の栄養を作り出したり、病原微生物を食べて減らすなど作物生育を支えてくれますが、機械で耕しすぎると棲息環境を壊してしまい、そのはたらきが低下します。耕耘回数を減らす、耕耘をできるだけ浅くするなど、管理作業のしかたも課題です。

ハウス栽培などで周辺環境の生物多様性をうまく活用できない場合は、病害虫を遮断する物理的な防除法も必要になることがあります。しかし近年では、施設内に持続的な生物多様性を生み出す技術も研究されています。防虫ネットなど完全遮断だけで対処しようとせずに、有機農業の基本である「健康な作物」づくりに立ち戻って考えることが大切です。

土の内外の微生物や小動物のはたらきと作物の健全生育の関係は、科学的な解明が進んできました。経営主の豊富な経験に科学的な知見を裏付けして、さまざまな角度から学びの機会を持ちましょう。病害虫対策では、どんな技術の組み合わせが適切か、研修生とともに研究し、自分に合った病害虫対策を見つけ出してください。

文/涌井 義郎

ガイドブック「有機農業をはじめよう!研修生を受け入れるために」12ページ

輪作・混作、品種の選び方」11ページ、「雑草対策」13ページも参照ください。